仙台高等裁判所 昭和46年(ネ)11号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕控訴人らが共同して、昭和四三年六月四日訴外早坂市太郎に対し、いずれも満期昭和四三年七月三日、支払地・振出地ともに仙台市、支払場所仙台信用金庫東一番丁支店、受取人早坂市太郎とする金額五五万円と金額二〇万円の約束手形各一通(以下、本件各手形という)を振出したこと、被控訴人が本件各手形を現に所持していることは当事者間に争がなく、<証拠>によれば、本件各手形の第一裏書欄には、いずれも被控訴人を被裏書人とする早坂市太郎の裏書の記載がなされていることが明らかである。そこで、まず控訴人らの主張の信託法違反の抗弁について判断する。
<証拠>を総合すれば、次の事実を認めるに足る。すなわち、
控訴人らは昭和四二年二月一日、貸金業を営む早坂市太郎から金五五万円および金四五万円を各弁済期同年三月二日、利息三〇日間につき八分、期限後の損害金日歩三〇銭の約定で借り受け、右各借受金の支払を確保するため金額金五五万円および金四五万円の約束手形計二通(各満期同年三月二日、支払地・振出地ともに仙台市、支払場所仙台信用金庫東一番丁支店)(乙第一号証の一、二)を早坂に対し振り出し、右弁済期までの利息として金八万円を前払した。右貸金二口の弁済期は爾後ほぼ一ケ月毎に順次延長されたが、その都度、控訴人らは早坂に対し同金額の書替手形を振り出すとともに前記約定利率の割合による利息金を前払いして来たところ、昭和四三年一月頃と同年四月頃の二回に亘り右貸金四五万円に対する元本内金として合計金二五万円を弁済した。同年五月六日控訴人らは早坂に対し、書替手形としていずれも満期を同年六月四日とする金額五五万円と金額二〇万円の約束手形各一通(乙第二号証の一、二)を振り出すとともに利息金を前払いして弁済期を右満期まで延長することの承諾を得た。本件各手形は、右手形二通の書替手形として振り出されたものであるところ、本件各手形の振出後、控訴人らは、たまたま友人の忠告により、既払の利息金を利息制限法所定の利率に引き直してその超過分を元本に充当計算すれば既に前示二口の貸金元本は消滅しているのではないかと気がつき、爾来、早坂の度々の請求にも拘わらず本件各手形金の支払を拒絶し、同年一〇月一五日早坂を相手どつて仙台地方裁判所に対し、債務不存在確認等請求の訴(金五五万円および金二〇万円の各貸金債務が存在しないことの確認と本件各手形の返還等を求めるもの、同庁昭和四三年(ワ)第八四〇号事件)を提起するに至つた。そこで早坂は、自己が原告となつて直接控訴人らに対し本件各手形金の請求訴訟を提起するにおいては、控訴人らから前記二五万円の内入弁済と前示支払に係る利息金のうち利息制限法所定の利率を超過する部分を元本に充当すれば本件各手形の原因債務はいずれも消滅に帰したとの抗弁を主張される不利益のあることを慮り、右抗弁を遮断して取立の目的を達するため同年一一月下旬、親しい同業者である被控訴人に対し本件各手形の裏書譲渡をなし(手形面上、裏書の日附を昭和四三年六月二五日に遡らせて記載した)、同月三〇日、両名連れ立つて控訴人らを尋ね、被控訴人において、本件各手形の譲受人であるとして本件各手形金の支払を求めたうえ、同年一二月二日本件訴訟(仙台地方裁判所昭和四三年(手ワ)第一五六号事件)を提起した。本件各手形の満期後においても、早坂は度々控訴人らに対し本件各手形金の支払を請求したが、その間、本件各手形を被控訴人に裏書譲渡したとの事実を告げたことはなく、また被控訴人が控訴人らに対して本件各手形金の請求をしたのは、前示のとおり昭和四三年一一月三〇日であり、それ以前に請求していない。被控訴人は控訴人ら三名のほか、早坂市太郎をも共同被告として前示手形訴訟を提起したのであるが、早坂において請求原因事実を自白したため、仙台地方裁判所は早坂に関する部分を分離し、これを通常手続に移行した上、昭和四三年一二月二七日、早坂は被控訴人に対し本件各手形金七五万円およびこれに対する昭和四三年七月四日以降完済まで年六分の割合による金員を支払うべき旨の被控訴人勝訴の判決を言い渡し、右判決は遅くとも昭和四四年一月一二日頃確定するに至つた。しかるに被控訴人は今に至るも早坂に対し、右確定判決に基づく強制執行の申立その他権利実現の手段を講じていない。<証拠判断・省略>
以上認定の事実関係を総合すれば、本件各手形は昭和四三年一一月下旬頃受取人である早坂市太郎から被控訴人に裏書譲渡せられたものであるが、右裏書譲渡は金融業者である早坂市太郎が自ら直接控訴人らに対し本件各手形金の請求訴訟を提起するにおいては、原因債務消滅の人的抗弁をもつて抵抗される不利益のあることを慮り、右抗弁を遮断して同業者たる被控訴人をして本件各手形金取立のため主として訴訟行為をなさしめることを目的としてなした信託行為であると認めるのが相当である。
してみれば、本件各手形の早坂市太郎から被控訴人に対する裏書譲渡は信託法第一一条に違反し無効であり、被控訴人は右裏書譲渡により本件各手形上の権利を取得し得ない筋合であるといわなければならないから、控訴人らは被控訴人に対し本件各手形金の支払義務を有しないというべきである。この点に関する控訴人らの抗弁は理由がある。
よつて、控訴人らに対する被控訴人の本訴各請求は、その余の点についての判断をなすまでもなく理由がないことが明らかであるから、失当としていずれもこれを棄却すべきである。
(兼築義春 桜井敏雄 佐藤貞二)